テニスクラブのContrast 〜ため息だらけだ、火曜日の対比。〜

時は火曜日、某高等学校の昼休みである。

「なーー、私、文句たれの少女になりそーなんやけど。」
「既になってる。」
「然らばこの状況にどない反応するよ?」
「(然らば…?)神戸弁と標準語混ぜて喋るのやめて。」

言ってさんはミートボールを一口かじった。

「それよりアンタどうするの?昨日コーチに球ぶつけちゃって。」
「うわー、それ言わんといてぇ〜。考えただけで泣きそうやねんからぁ。」

さんの隣に座っていたさんはお箸を片手に頭を抱える。

「ま、私もあんまりテンション高くないけど。」

さんは『ヤバいがな〜、どないしょう〜』と呻きまくっている友を
横目で見ながらミートボールを平らげた。

今日のレッスンもどーなるか、わかったもんじゃないな…。


その頃、プリンステニスクラブの方では…

「あー、今日は俺が跡部と仕事かー。」
「あー、今日は俺が千石さんと仕事かぁ。」

……………………………。

「何や神尾、俺の真似かいな。」
「んなことしませんって。突っ込まれるしよ…
「何か言うたか?」
「いえ、別に。」

神尾氏は言ってお弁当のほうれん草のおひたしをもぎゅっと一口。
忍足氏は『納得いかへんなー』という顔はしたがそれ以上は突っ込まない。

「ともあれアレやな、跡部の奴がの嬢ちゃんを虐待せんようにせんと…」
「大変っスね。俺も千石さんの暴走を止めねぇと…がレッスンどころじゃなくなっちまうし。」
「…お互い同僚のことで苦労するな。」
「まさにそれっスよ。」

ここで忍足氏と神尾氏はハアァァァァァァァと自分達の弁当の上でため息をついた。

苦労しているのは何も生徒だけではないらしい。

ま、何がともあれ、火曜日の対比は開始される。



さんの場合』

昨日えらいインネンをつけられてしまったさんは今日は彼女なりに迅速に行動した。

クラブの敷地に足を踏み入れた瞬間、さんとの別れもそこそこに
コートまでダッシュしたんである。

「おう来たか、嬢ちゃん」

コートに行ってみると忍足氏がいた。

「まだ跡部は来てへんで。間に合うて(まにおうて)良かったなー。」
「ハア、ハア、そら良かったです…」
「嬢ちゃん、昨日えらい目に遭うたもんな。」
「いやー、アハハハハ…」

昨日の悲劇(と言おうか何と言おうか)を思い出したさんは乾いた笑いをするしかない。

「せやけど嬢ちゃん、ようやったで。」
「はい?」

唐突な忍足氏の発言にさんは首を傾げる。

「昨日跡部に球ぶつけたんやろ?ようやった。」

言って忍足氏はさんの肩をポンポン。

(えーとぉ…)

さんは思った。

(それって褒められることなんやろか。)

「俺もなー、あいつどついたろか思たこと何度でもあるんやけど…
まさかホンマにやる訳にもいかんしな。」
「あの…」
「ん?何や?」
「何でそんなしょーもないこと知ってはるんですか…?」

さんが素朴な疑問をぶつけると、忍足氏はああ、と呟いた。

「とーっくの昔に有名になってるで。あの跡部にボールぶつけたって。」

ちょっと待たんかい。

さんは思わず内心で巨大突っ込みを入れた。

「いやー久々におもろいことになったなー。」

いや、全然おもしろないし!!

「何でやろ…」

さんは呟いた。

「いっつもそんな気ないのに気がついたら目立ってもとう…」
「そら嬢ちゃん、アレや。」
「アレ?」
「天然キャラの宿命やな。」

誰が???

さんが頭の上に大量のクエスチョンマークを飛ばしまくると、
忍足氏はそれに呼応するかのように言った。

「アンタな、意識せずにあんだけのことやっといて天然ちゃう言うても説得力ないで。」

さんはゆっくりと後ろにぶっ倒れてしまった。


さんの場合』

さんがえらいスピードで飛んでいってしまったのを見送った後、
さんは1人自分のコートに到着した。

例によってコートには既に彼女担当のコーチ達が待ち構えている。

「やー、ちゃん☆」
「よぉ、。」

メインコーチ殿は相も変わらずニッコニコ、サブコーチ氏の方は普通である。

「んじゃ、ちゃん、今日もはりきっていこーね!」
「って千石さんっ、もーすっ飛んでんのかよっ!!」

この時、さんは危ういところでまたも千石氏に触れられるところだったのだが、
気の利くサブコーチがそのすっ飛び青年の首根っこを掴んで―それも両手で―
止めてくれたので難を逃れた。

まあ、さん自身は『チッ、また蹴り損ねた』などと過激なことを思ってたのであるが。

「ったく、この人は…」
「ひどいなぁ、神尾クーン。俺、首ちょっと擦れたんだけど。」
「アンタにゃそれぐらいでも足りませんよ。」
「うわちゃー、えらい言われようだねー。あーあ、俺って最近アンラッキー…」

一番アンラッキーだと思っているのはさん自身だと千石氏が気がつくのはいつのことか。

「ところでちゃんっ!」

ブツブツ言っていた千石氏は次の瞬間にはパッと顔を上げる。
…もしかしたら一生さんが困っていることに気がつかないかもしれない。

「この前から気になってたんだけど、ちゃんって誕生日いつなのかなー?」

唐突な質問にさんは勿論、『はあ?』と思う。

「千石さん、一体何きーてんですか…」

傍で聞いてる神尾氏は引きつっている。
長い前髪の間から怒りの四つ角が見え隠れするのはおそらく目の錯覚ではあるまい。

「いやー今朝雑誌の星占い見ててさっ、自分ののついでに
ちゃんのも見たげよーと思ったんだけど…
考えてみたら誕生日とか全然聞いてなかったなーって。アッハッハッ!」

いきなり手を握ってくるかと思えば今度は誕生日を聞きだそうとするし…
ホントに何よ、この人。
誰がこいつなんかに自分の個人データを教えるもんか。

そう思ったさんはこう口にした。

「私…占いとかに全然興味ないんで。」

千石氏はえっ?!そーなの?と頓狂な声を上げる。

「珍しいねー、女の子なのに。」

ムカ。

…実は。

さん、さんコンビは男だの女だのの区別をつけるよーな
発言をされるのが大嫌いな人種だったりする。

そんな人種に上記のような発言をすれば地雷を踏んだも同然なのだが、
千石氏は気づいちゃいない。

「そっかー、そういう子もいるんだね。残念だなー。」
「千石さん、んなことよりさっさと始めるっスよ…」
「せっかちだなー、神尾クン。」
「アンっタが呑気なんだよっ!!!」

どうも神尾氏は鳳氏とは違いやや気が短いようであるが…
さんは横目で見ながらつくづく彼に同情した。


コーチの台詞にぶっ倒れたさん、かたや冷静にたたずむさん。
火曜日の対比はまず2人のお嬢さんの正反対な性格を改めて浮き彫りにしたといえよう。

ま、それはともかくレッスン開始だ。


さんの場合』

(一体、今私の周りで何が起こってるんやろか。)

さんは思った。

「おい、。」

ネットの向こうでは昨日散々人に遅刻だとインネンをつけといて
今日はレッスン開始時刻を10分も過ぎてから姿を現したメインコーチ殿が
偉そうに彼女を見下ろしている。

「さっさと打て。」

ここで『やっかましー!!』なんぞとキレてしまえばさんの負けである。
思うところは多すぎるのだが、言われたとおりにする。

バシッ!!

「ほぅ。」

後ろで見ていた忍足氏が感心したように呟いた。

「嬢ちゃん、やるなー。つい3日前までサーブ全然やったのに。」

さんは素直に照れたりなんぞした。が、

「たりめーだ、昨日俺様に球ぶつけたんだからそれぐらい出来てもらわねーとな。」
(こいつ…)

さんの右眉がピクピクと痙攣する。

(きっちり根に持っとうがな!!)

「跡部、お前穏便に済ますゆー頭ないんか?」

プルプル震えるさんの肩に何か感じたのか忍足氏が頭を抱えて呟く。
多分彼はさんが跡部氏に対して、こいつ、大口径銃で腹に穴開けたろかと
思っていることにも気づいているだろう。

「あんだ、お前怒ってんのか?」

跡部氏がニヤニヤ笑いながらのたまう。
どー考えてもわかってるくせに聞いてるとしか思えないのだが、
忍足氏にこれ以上迷惑かけるのに忍びないので
さんはニッコリと引きつった笑いをした。

「いーえ、別に。」
「ならいい。」

両者の間に何かギクシャクした空気を感じるのは
第三者の目からしてもおそらく気のせいではあるまい。

「次だ、もっぺん打ってみろ。」
「はい…」

バシッ!

「勢い落ちてんぞ、昨日の威勢はどーした?」

ガインッ

「フレームで打つたぁ器用だな。」

ゴインッ

「おい、それ以上球食らったら只でさえ馬鹿頭が更に進行するぜ。」

…………………………………………。

プッツン。

でーい、えー加減にせーっ!!!

さんはとうとうキレた。

思わずネットの向こうのメインコーチのとこまで突進しかける。が、

「アカンて、嬢ちゃん。」

忍足氏が耳元でコッソリ囁いた。
ちなみにその両手は『の嬢ちゃん』が跡部に掴みかかったりしないよう
しっかりその両肩を掴んでたり。

「あいつに迂闊に突っ込んでったら後々もっとえらいことになるで!」

大変ご尤もな意見。

さんは諦めるしかない。

「ううっ…ちくそーっ…」
「耐えるんや、俺かてあいつと仕事するん辛いんやから。」
「苦労なさってるんですね…。」
「わかるか。」
「…てめーら、全部聞こえてるぞ。」

ネットの向こうの人物に言われて関西人コンビは思わず肩をすくめる。

「人が黙ってたら言いたい放題言いやがって。」

それはアンタが言えることちゃうやろ、とさんは内心突っ込み。

「俺様には許されるがな。」

さんの思っていることを見透かしたように跡部氏は言ったので、
さんは思わずさっき忍足氏に言われたことと、
既に自分が妙なことで有名になってしまってることを忘れて
『今度こそわざと球ぶつけたろか』と構えた。

「上等じゃねーの、さっさと来い!」

言われたとおり、さんはわざとメインコーチ殿の顔面にぶつける勢いで球を打つ。

しかし、

「バーカ。」

ゴスッ

「ぴぎゃーっ!」

かわいそーなさんは逆に跡部氏が返してきた球に眉間をノックされ、
無様にすっ飛ばされた。

「跡部、お前生徒は大事にせぇや…」

忍足氏がため息と共に呟く。
さんはそんな忍足氏にバンソウコウを貼ってもらいながら
半ベソを掻いていたのであった。


さんの場合』

さんが受難者なのは言うまでもないのだが、さんも大概受難者である。

「ねーちゃーん、誕生日教えてよ。」
「イヤです。」
「そんなに怒んなくても。」
「知りません。」
「どーしよ、神尾クン。」
「んなことより千石さん、頼むから手ぇ止めないでください…時間が掛かってしょうがないっスよ。」

えーと…さんがメインコーチに散々言われている間、
さんの方はずっとこんな状態が続いていた。

何せ相手があの千石氏である。
指導はなかなか上手なのだが、ちょっとすればすぐに指導の手を止めて
さんのことを聞きたがってしょうがない。

で、その度にサブコーチが止めに入ってるのである。

、すまねえな。」

うう、俺今日女難の相出てたっけ?とか何とか訳のわからないことを
ブツブツ言う千石氏の背中を見ながら神尾氏がため息をついた。

「別に。」

さんは答える。
実際、この馬鹿げた状況は神尾氏の責任ではない。

「んじゃ、あの人はほっとくか。どーせすぐ復活するだろうしよ。」

昨日の鳳氏といい、千石氏を無視するというパターンは最早慣習化されているのか。
ま、さんにはすこぶる好都合であるが。

「それじゃやるぜ、。」
「っとー、その前に!」

いきなりの千石氏の割り込みに、神尾氏がずっこけた。

「何なんスか、千石さん。いきなり…」
ちゃーん、また膝伸びちゃってるよ?」
「って俺は無視かよ!!!」

気の毒な神尾氏が喚く一方、さんはさんで
もう復活したメインコーチに冷たい目を注ぐ。

懲りないなー、このメインコーチは。

「そうそう、もうちょっと曲げないとね。」

しかもいつのまにやら至近距離に寄っている。
恐るべし。

「これでよし、と。じゃ、神尾クン、頼んだよー。」
「言われなくてもやりますって。おっしゃ、しっかりついてこいよ!」

言って神尾氏が軽く球を打ってくる。

そして、神尾氏は言った。

「リズムに乗るぜ!!」

打ち返そうとしたさんは思わず固まった。

ちょっと待ってよ。

さんは思った。

今何て言った?

思ってるうちに、ボールは虚しくさんの足元を転がる。

「どーしたぁー、ちょっと強すぎたかー?」

ネットの向こうから神尾氏がご親切にも声をかけてくれる。

「いえ、別に…」

さしものさんも、『何だか変な言い回しが聞こえた気がして固まっちゃいました。』
なんぞとは言えない。絶対に言えない。

「神尾クンのあれは気にしなくていいからねー。」

いちいち察したかのように横で見ていた千石氏が言った。

「いつものことだし、中学の時からあれ言わないと調子でないみたいだから☆」

どーよ、それ。…とさんが思ったのは言うまでもない。が、

「おーい、。次行くぜー!」

とりあえずはやるしかあるまい。
先程の不可思議な言い回しについては聞かなかった振りをしよう。

「はい…」

さんは答えてラケットを構える。
ボールが飛んできた。

「っ!」

パシッ

「おっ、いいねぇちゃん。綺麗に返せたよ。」
「やるじゃねーの、よっしゃ俺もリズムを上げるぜ!

今度はリズムを上げると来たか…
褒めてくれるのはいいんだけど、ちょっと。

さんはボンヤリ思う。

パシィッ

「おっと、またいい球だな。リズムに乗るぜ!」

神尾氏は俄然ノリノリである。

バシッ

「リズムを上げるぜっ!!」

ヒュンッ

「リズムにHigh!!」

… ……………… ……………… ……。
プチッ

さんの中で何かがキレた。

この人…

いちいちリズムリズム五月蝿い!

「いやーノリノリだねー、神尾クン☆」

アンタも止めろ。

アッハッハと呑気に笑うメインコーチにもさんは思わず内心で突っ込む。

「でも、あんまりリズムリズム言ってると息切れちゃうよ?」
「まだまだ余裕っスよ、こんな程度でへばってられませんって。」
「いやー、さすが神尾クン。頼もしいねー。ね、ちゃん?」
「ハァ。」

いきなり話を振られたさんはやや間抜けな返事をするしかなかった。
間違っても『あの口癖が鬱陶しいんですけど』と大きな声で言うわけにいかなかったので。


明らかに悪気ありまくりのコーチ、悪気はないけど五月蝿いコーチ、こんだけ違えば上等だ。
どの道、2人のお嬢さんが受難者なのは変わりなかったりして。

ともかくここで休憩時間に入る。



「アンタ、また何しでかしたの?」

自分の友の眉間に貼られたバンソウコウを見ながらさんは尋ねた。

「何って何でもかんでも私が悪いよーな言い方やな〜。」

さんはバンソウコウを撫ぜながら不満げに呟く。

「だってアンタ、自分じゃその気ないのにしょっちゅー何かしでかすじゃない。」

さんは言って自販機のボタンを押す。
ガコンと音がしてサイダーの缶が出てきた。

「うっわひど!とにかくこれはやな、あの俺様コーチのせぇや。」

さんはどれにしよかいな、と自販機に並ぶ見本の列を指で辿る。

「あのにーちゃん、よりによってワザと人にボールぶつけおってからに…
絶対昨日のこと根に持っとうわ。」
「そりゃぁ、ね。」
「せやけど私かてまさかあのにーちゃんがあんなタイミングで戻ってくるなんて思ってへんし!
大体、人のことこきおろすくらいやったら自分も私の球くらいよけろっちゅーねんっ!!」

騒ぎながらさんは散々迷った挙句、林檎ジュースのボタンを押す。
…炭酸飲料が飲めないのは辛い。

「それじゃ、私はまだマシな方か。でも面倒だけど。」
「何で?」
「メインコーチは人の誕生日いちいち聞いてくるし、サブコーチがリズムリズム五月蝿い。」
「あらま。」

さんは林檎ジュースを一口。

「私、あーゆーこといちいち聞かれるの嫌いなんだけどな…」

さんはため息とともにサイダーを口に含む。

「そない言うたら?」
「嫌。」
「…言うと思たわ。」

で、2人はしばらく無言状態になってコクコクとジュースを飲む。

沈黙が破られたんは、お2人さんが缶を半分くらい空にした時である。

ガサガサ

二人が座っているベンチの後ろの茂みが怪しく音を立てる。
そして、次の瞬間

「わっ!!」

ガターンッ ドシャ ザリッ ブチッ バキッ

辺りにどえらい音が響いた。

一応説明しておくと、最初の3つの音は吃驚したさんがベンチから飛び上がって
地面にずっこけ、ついでに鼻をすりむいた音、
残りの2つはさんの血管がキレたのと、
思わず缶を強く握り締めてへこませてしまった(スチール缶なのに)音である。

ともあれ突然の奇襲攻撃に、さんは『一体何やっ?!』と顔を上げ、
さんは怒りで顔を真っ赤にして茂みの後ろに居る人物を睨みつけた。

「うわちゃー、思ったよりえらいことになっちゃったね。」
「千石コーチ…」

友の呟きに鼻をすりむいたさんは、なるほどこのにーちゃんか、と思いながら
ポケットからバンソウコウを取り出す。

「御免御免、たまたまちゃん見つけたもんだから、
ちょっとだけ吃驚させるつもりだったんだけどさっ。
あ、君がちゃんだね?俺は千石清純、よろしくね。」

いきなりの名前呼びにさんは友に困惑した目を向けたが、
生憎さんはかなり怒っているらしくそれどころではない。

今、に触ったらえらいことになる。

長年の付き合いでわかっているさんはとりあえず友は置いておいて、

「えーと、何で私のことご存知なんですか…?」

と引きつりながら千石氏に尋ねた。

「ん?有名だよー、あの跡部クンにボールぶっつけた子だって☆」
「…申し上げときますけど、ワザとやないんで。」
「わかってるって。俺達も吃驚したからねー、まさか跡部クンがそんなドジやらかすなんて☆」
「おかげさんで私は今えらい目に遭うて(おうて)るんですよー。」
「まっ、まー相手が相手だからね。でも、めげずに頑張ったらいーんじゃない?」

千石氏に言われてさんはちょっとだけ元気になった。

「ところでさー、ちゃん。ちゃんのことだけど…」
「今はそっとしとくことをお勧めしときますわ。えらいことになりますよ。」
「えっ?!そーなの?」
「ハイ、相当怒ってますんで。」

さんが言うと千石氏はハハと引きつり笑いをした。

「うーん、俺ってやっぱここんとこアンラッキー?」

自業自得とちゃうんか、とさんは思った。

なるほど、確かにの言うとおりこの人、悪い人やないけど突っ込みどころ満載やな。

そんなこんなで休憩は終了。


「千石さん、また何かしでかしたんですか?」
「ひどいなー、神尾クン。俺ってそんなに悪者?」
「アンタが何かやったんでなきゃ、があんなに不機嫌なわけないっスよ!」
「そんなー。」


「おう、嬢ちゃん。ちょっと元気になったな。せやけど、何やバンソウコウが増えてへんか?」
「いえ、ちょいと転んでもたりして…ハハハ」
「ハッ、ドジ娘が。」
「跡部、お前ちょっとは黙れや…」

…結局この日、さんは跡部コーチにいいように遊ばれ、
さんは千石コーチが何度も『許してよー』と懇願するくらい怒ったまんまだった。

そんでレッスンが終わる頃…

「さすがにそろそろ許したってもよかったんちゃうん?」
「絶対イヤ。」
「ハアァァァ、しゃあないなぁ〜」

「俺、しばらく跡部と仕事したないわ。」
「俺もしばらくは千石さんと仕事しないって誓ったっスよ。」
『ハアァァァァァァァァァァァァ』

夜の帳が下りる頃、2箇所で大きなため息が漏らされる火曜日だった。


作者の後書き(戯言とも言う)

書く度に テンション上がるよ この連載。

…ぬわーんて七五調(でも字余り)で言ってみたりして。
多分、これかなり重いです。スイマセンm(__)m
しかもまだまだ続きます。更にスイマセンm(__;)m

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